

世界を飛び回る安倍首相
安倍外交。臨時国会を前に安倍首相は8月下旬から9月下旬まで、わずか1か月間で世界をまたにかけて飛び回った。
まず、8月20日のリオデジャネイロ五輪の閉会式に出席のために南米ブラジルに飛び、閉会式ではマリオのコスプレで世界中の目を引き、首相はメディアを通して次回の東京開催を全世界中に強く印象づけて帰国。休む間もなく、8月27日、28日にはケニアへ飛び、ナイロビで開かれたアフリカ開発会議(TICAD)に出席、アフリカ主要国首脳とも会談。一息もつかず、今度はその足でロシアのウラジオストックに飛び、プーチン大統領とは「シンゾウ」「ウラジミール」と、ファーストネームで呼び合う親交ぶりを構築、12月のプーチン訪日に合意を取り付けた。
更に、中国・杭州のG20首脳会議に出席、ラオスのビエンチャンでの東アジアサミットにも出席、熱烈な安倍外交を演じた。
そして、9月20日、今度は国連演説のためにアメリカ・ニューヨークに飛び、オバマ大統領や李中国首相との会談後、疲れも見せずその足で、カリブ海に浮かぶキューバに飛び、9月22日、首都ハバナでラウル・カストロ国家評議会議長と会談、北朝鮮の最友好国であるキューバに対して、核・ミサイル開発への強い危機感と拉致問題の早期解決への協力を強く要請し、両国間の関係強化にも合意した。キューバは日本の歴代首相が誰も行かなかった国だ。安倍首相の地球をまたにかけた世界外交は電波や活字メディアによって世界中が周知の通りだ。
この頃、安倍首相の表情からは、地球をまたいだハードな外交日程を消化したにも拘わらず、疲労感が全くなく、「確かな手ごたえ」に裏打ちされた自信と満足感がうかがえる。
世界外交は、安倍首相にとって「自信」の源泉にもなっているようだ。その自信の源泉が今後の内政の肥やしになるのか。安倍首相が世界中を駆け巡っていた頃、沖縄では後述の通り辺野古裁判の判決が下されていた。今後の内政問題にも注目しよう。
憲法改正の足音
9月26日に臨時国会が召集され、安倍首相は衆参院両院の本会議で所信表明演説を行い、念願だった憲法改正の発議に向けて、衆参両院の憲法審査会で速やかな議論を深めるよう、与野党に強く呼びかけた。このような光景は異例であり、画期的だ。
安倍首相はこれまでの国会演説の中で、憲法改正には簡単に触れただけで、14年の所信表明演説では全く触れなかった。
しかし、本年は明らかに違う。首相は演説の中で「憲法はどうあるべきか。どういう国を目指すのか。それを決めるのは政府ではない国民だ」と強調し、さらに「その案を国民に提示するのは国会議員の責任だ」とまで述べた。
演説の中のこの部分を聞いた瞬間、筆者はテレビを見ながらパチリとまばたきをした。前回の本ブログ(第54回、9月1日更新)の大見出し、「憲法改正は時勢の流れ」の中で「憲法改正案の作成は両院の憲法審査会に課された重大な役割であり、今期国会議員の責務でもある」、と筆者が僅か3週間前に主張したことと偶然にも同意語であったからだ。
憲法改正は衆参3分の2以上の賛成で発議され、国会議員の過半数の同意を得て改正が実現できる。
自公の与党側は7月の参院選で大勝し、日本維新の会など改憲勢力を含めて、衆参両院でそれぞれ3分の2以上の議席を占めた。
だが、今までの憲法審査会では、与野党の対立が続きまだ改正項目の絞り込みまでは進んでいない。
ところが、今回の安倍首相の所信表明演説をはじめ、国会では予算委員会でも憲法論議が活発になり、国会全体の雰囲気としては、今までと違って「憲法改正」の方向にあることは間違いないようである。
民進党の幹事長に就任した野田佳彦元首相は代表質問の中で、国会が憲法改正の審議を始める前提として、なんと自民党の憲法草案の撤回を要求したが、これは笑止千万だ。自民党が草案の微調整はあっても、撤回するわけがない。それよりも、改憲と護憲で割れている民進党は、憲法改正について、党の意志を統一し、明確にすることが党をまとめる幹事長の責務ではないのか。野田幹事長にその指導力がないから議論を先送りしている、と解されても仕方がないだろう。
いずれにしても、憲法改正には国民投票の過半数の賛成が絶対条件であることを考えれば、この高いハードルを越えるには自民党としては、どうしても与野党の一致点を探る必要がある。場合によっては、法案審議の段階で歩み寄る柔軟な姿勢も求められるだろう。
しかし、そうであっても古さびた今の憲法は早めに改正することが望ましい。
我が国は、自主憲法の制定によって、旧態依然とした戦後体制から脱することになり、日本国民が名実ともに敗戦気分を一掃し、国民が一丸となって、新憲法に示された新しい国家像を目指して邁進することが出来る。改めて自主憲法の制定を強く求める。
どうなる沖縄の「米軍基地」問題
いみじくも安倍首相が世界中を駆け回り、国内外で多忙を極めている最中に、9月16日、沖縄では注目の辺野古裁判(違法確認訴訟)があり、福岡高裁那覇支部が国側に勝訴の判決を言い渡した。
とりもなおさず、辺野古新基地反対派は猛反発だ。翁長知事も同判決を不服として直ちに上告。沖縄二紙も連日、司法批判の論調を満載している。
この裁判、遅くとも来年3月までには最高裁の判決が出るという。また、翁長知事も最高裁の判決には従うと法廷で証言している。
従って、もう福岡高裁の判決内容に関しては何も言うことはしない。筆者は、最高裁の判決までは沈黙を守ることにする。
それは、最高裁の判決を目前にして、福岡高裁の判決内容をいろいろと論じても今は大した意味がないと思うからだ。
ただ、確かにあの判決文を読んで「これはーー」と首をかしげる部分もあるが、その反面、頭を真っ白にして客観的に読み直して見ると、「なる程」と思わせる部分も決して少なくない。従って、沖縄県民も辺野古反対を支持している沖縄二紙の報道だけでは正確な判断が難しいのではないか。
翁長知事は、一方では「本件の判決には従うが、あらゆる手段を駆使して辺野古新基地を阻止する」とも法廷外で公言している。沖縄二紙も盛んに辺野古反対の方向へ民意を煽っている。
仮に最高裁でも国側勝訴の判断が下されたとしても、かかる国策の推進が本当に可能なのかどうか。思えば世には「負けるが勝ち。負けて勝つ。」という金言もある。なかんずく、沖縄の米軍基地問題は、今は冷静に最高裁の判断を待つことにしよう。沈黙は金なり。 (季刊『現代公論』責任編集・ジャーナリスト)
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<完>
次回は11月1日更新。毎月1日定期更新。その他必要に応じて随時、適時に更新いたします。どうぞ、時折に本ブログをお開きください。