2018年10月15日更新〈第78回〉
玉城デニー新知事の宿題<前編>
~玉城県政も重荷を背負って
はじめに
激戦だった沖縄県知事選は、玉城デニー氏が8万票の大差で当選し新知事に就任した。
顧みて、玉城氏の大きな勝因は何といっても翁長前知事の後継者であることを強調したいわゆる〃弔い合戦〃の戦略が奏功したことだろう。
玉城陣営による翁長知事の弔い合戦を印象付ける効果的な新聞広告(写真参照)や、また、大集会では翁長夫人の涙ながらの「ウチナーンチュの心をすべてさらけ出して、マグマを噴出させて命(ぬち)のかじり頑張りましょう。」と玉城支持を訴える挨拶を取り入れるなど選挙運動全体として、実に巧妙な演出だった。
佐喜真陣営では、玉城陣営の政策ではなく弔い合戦に徹した戦法を最後まで打ち破ることが出来なかった。佐喜真氏が政権与党の協力を得て、街頭でどんなに叫んでもそれを論破するには及ばなかった。沖縄県民の心の中にある強い弔い感情の所以である。
特定候補に偏った沖縄二紙の姿勢
沖縄タイムスと琉球新報の沖縄二紙も県紙の名に相応しく公平な判断材料を有権者に提供すべきであったが、そうではなく選挙戦前からの紙面づくりは、読者に〃弔い合戦〃を強く連想させる記事を満載し、玉城支持に偏向していたことは誰の目にも明らかだった。
選挙運動期間中の両紙の連載企画記事に限って見ても、沖縄タイムスが「識者の目」と「私の意見」。琉球新報が「政策点検」と「識者の視点」そして現在も続いているが両紙共同企画の「沖縄の針路」だ。
両紙がそれらの企画記事に登場させた人物は稲嶺恵一元知事を除けば、ほとんどが翁長県政を支援し「辺野古阻止」を叫んでいる人たちである。
選挙期間中に東京から来沖したある著名人は「沖縄の新聞は特定候補の機関紙になっている。本土では見られない事象だ。このような言論空間で当選するには相当なエネルギーが要るだろう。」と、率直な感想を筆者に漏らしていたが、それには返す言葉もなかった。
沖縄二紙は、特定候補者を支援する紙面づくりに留まることなく、今回の知事選に鑑みて〃弔い合戦〃を後押ししていると見られる追悼本までも出版した。これもまた異例である。
沖縄タイムスが出した『翁長知事の発言集』、琉球新報が出した『魂の政治家翁長雄志発言録』という本である。
琉球新報が出した本の「まえがき」には次のようにある。「翁長雄志という政治家は、沖縄にとって不世出の存在だった。その名は、屋良朝苗、瀬長亀次郎、西銘順治、大田昌秀と並んで沖縄現代史に深く刻み込まれるのは間違いない。だが、そこに留まらず、沖縄現代史、琉球史に記される存在であったといっても大げさではないのではないかーー」
書店側の話によると発売当時から出足は好調のようである。
従って、両新聞社が、これらの本を出版したことによって、たとえ翁長雄志氏が候補者でなくても、後継者という特定候補者への支持拡大を利にしたことだけは間違いないだろう。特定候補者の当選を前提にすれば、権力を監視する立場にある新聞メディアが本当にこのような姿勢でいいのだろうか。
玉城デニー氏の当選は〃弔い合戦〃の奏功と新聞の偏った報道によって導かされた結果でもあると言えよう。
翁長知事の〃遺志〃を継承するという玉城新知事は、そうであれば翁長前知事の在任中と同じく再び国を相手にいばらの道を歩むことになり、また、後継者として大きな宿題も抱えることになろう。
次回の<後編>では、玉城県政の姿勢とその行方を追う。
<次回79回へ続く>
次回は11月1日更新。毎月1日に定期更新。その他、必要に応じて随時、適時に更新いたします。
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